小紅書:SNSから「生活検索エンジン」への進化
おはようございます。深セン在住の吉川です。実はこの2週間、体調を崩してしまい、何度も呼吸困難に陥りながらふらふらしておりました。しかし、エポスカード付帯の海外旅行保険(出国から90日適用)を活用し、深センにある評判の良いクリニックでキャッシュレス診療を受けたところ、次の日には完全復活することができました。中国ではよく「お湯をたくさん飲めば治るよ(多喝开水才能好起来)」というフレーズを耳にしますが、早く治したいときにはやはり西洋医学に頼るのが賢明だと実感した今日このごろです。
さて、今回はそんな中国で今、ますます存在感を増している「小紅書」についてお話ししたいと思います。このプラットフォームは日本でも「中国版Instagram」として知られつつありますが、その本質はSNSの枠を大きく超えています。小紅書は、旅行、美容、ファッション、不動産、採用活動、スキル学習など、日常生活のあらゆる分野で活用されており、「体験型検索エンジン」として注目されています。
このプラットフォームの最大の特徴は、ユーザーが実体験を共有することで、他のユーザーがその情報を検索して活用できる点にあります。「実体験を共有する検索エンジン」としての独自性が、小紅書を他のSNSや検索エンジンと一線を画す存在にしているのです。本稿では、小紅書の成り立ちから進化、さらにはビジネスでの応用例に至るまでを、詳しく解説していきます。
小紅書の成り立ちとその進化
小紅書は2013年、毛文超(Mao Wenchao)と翟芳(Zhai Fang)によって創業されました。当時、中国では中産階級の台頭に伴い、海外旅行や輸入製品への関心が高まっていました。しかし、現地でのショッピング情報や観光案内を網羅的に提供するプラットフォームが存在せず、情報不足が課題となっていました。
このギャップを埋めるために設立された小紅書は、ユーザーが実際に訪れた国や地域で購入した商品や体験したサービスについてレビューを投稿し、それを他のユーザーと共有するコミュニティとしてスタートしました。当初は「海外旅行で買うべき商品リスト」を提供するガイドブック的な役割を担い、口コミの力を活用してユーザーの間で評判を集めました。
アプリ版リリースによる急成長
2015年、小紅書はスマートフォンアプリをリリースし、これにより利用の手軽さが飛躍的に向上しました。スマートフォンを使ってリアルタイムで情報を検索したり、写真や動画を投稿できる機能が、多くのユーザーを惹きつけました。特に、視覚的な訴求力が高い写真や動画を中心とした投稿形式が、視覚情報を重視する若年層を中心に支持を集めました。
また、スマートフォンの普及に伴い、都市部だけでなく地方都市や農村部のユーザーも増加し、小紅書は幅広いユーザー層にリーチするプラットフォームへと成長しました。
ライフスタイル全般を網羅するプラットフォームへ
2020年代に入ると、小紅書は単なるショッピングガイドの枠を超え、ユーザーのライフスタイル全般をサポートするプラットフォームへと進化しました。美容、ファッション、旅行といった従来の強みだけでなく、不動産や採用活動、さらには趣味や学習など新しい分野にも進出し、多様な用途で利用されるようになりました。
特に2020年以降、新型コロナウイルスのパンデミックによりオンラインでの情報収集や購買行動が急速に広がる中、小紅書はその利便性と信頼性を武器に多くの新規ユーザーを取り込みました。
小紅書の検索エンジンとしての価値
他の検索エンジンとの差別化:体験型検索の強み
中国で広く利用される主要検索エンジンである百度(Baidu)は、広告やステルスマーケティングの氾濫により、ユーザーが必要な情報にたどり着くことが難しいという課題が指摘されています。これに対し、小紅書は「実体験を共有する場」として、広告やプロモーションに依存せず、ユーザーが実際に体験した情報に基づく投稿を中心に構成されているため、信頼性が高いと言えます。
実体験に基づく信頼性の高い情報
たとえば、訪日旅行を計画している中国人観光客が「京都紅葉見どころ(京都红叶季攻略)」や「大阪 ラーメン 人気(大阪必吃拉面)」と検索すると、現地を訪れたユーザーが投稿した写真やレビューが数多く表示されます。
これらの投稿には、混雑を避けるためのアドバイスやおすすめの時間帯など具体的な情報が含まれており、旅行計画の参考になります。
さらに、小紅書はアルゴリズムによって、関連性の高い投稿を優先的に表示する仕組みを採用しています。これにより、ユーザーは検索意図に合った情報を迅速に取得でき、必要な情報に的確にアクセスできる点が強みです。
視覚的コンテンツによる直感的な情報取得
小紅書の投稿は、写真や動画が中心となっており、視覚的に魅力的な情報を提供しています。特に旅行、美容、ファッションといった分野では、視覚的な要素が意思決定に大きな影響を与えるため、小紅書の形式は非常に効果的です。
小紅書の利用事例:多様な分野での活用
旅行と観光:リアルな情報を求めるユーザーに最適
旅行者にとって、小紅書はガイドブック以上の価値を持つツールとして機能しています。上述した通り、訪日中国人観光客が「大阪 ラーメン 人気」や「京都 紅葉 おすすめスポット」といったキーワードで検索を行うと、現地を訪れたユーザーが投稿した写真や詳細なレビューが豊富に表示されます。これらの投稿には、具体的な営業時間、混雑状況、交通アクセス、さらには周辺にある他の観光スポットの情報も含まれており、旅行計画を立てる際に非常に役立つものです。
特に旅行中のリアルタイム検索では、小紅書の力がさらに発揮されます。旅行者が現地で「東京 カフェ 静か」「名古屋 夜景 スポット」などを検索すると、即座に最新の情報が得られるため、滞在中の観光体験をスムーズに進めることができます。また、投稿には「駅から徒歩5分」「地元の人が多く訪れる」といった実際の体験談が含まれるため、信頼性が高い情報として利用されています。
さらに、最近では旅行者だけでなく、観光事業者や宿泊施設も積極的に小紅書を活用しています。ある日本の旅館では、宿泊客が撮影した写真や感想を小紅書に投稿するよう促し、その結果、訪日中国人観光客の間で話題となり、予約数が大幅に増加した事例があります。このように、小紅書は旅行者と観光事業者の双方にメリットをもたらすツールとしての役割を果たしています。
美容とファッション:若年層を中心に広がる「種草文化」
小紅書の利用が特に活発な分野の一つが美容とファッションです。ここでは「種草」という口コミ文化が根付いており、ユーザーが自分の体験をもとに商品やサービスを他者に推薦する行動が主流となっています。この文化は、商品のレビューや使用感を共有するだけでなく、購入者がどのように使っているか、どのようにコーディネートしているかを具体的に示す場として発展しています。
たとえば、あるユーザーが「新作秋冬メイクにおすすめ口紅」と題した投稿を行うと、そのリップを使ったメイク写真や動画が添えられます。投稿には「乾燥しやすい唇にも合う」「長時間色が落ちない」といった具体的な使用感が記載されており、これを見た他のユーザーが購買意欲を高めるという流れが一般的です。このようにして、個人の体験が多くのユーザーに影響を与え、商品の売上向上に直結しています。
また、ファッション分野でも、小紅書の利用が進んでいます。たとえば、あるインフルエンサーが「カジュアルスタイルのコーディネート例」を投稿すると、その投稿に含まれるアイテムの詳細や購入先が紹介されます。
ユーザーは、視覚的に訴求力の高い写真を見ながら、自分のファッションに取り入れやすいスタイルを参考にすることができます。さらに、最近ではブランド側も小紅書を活用し、ユーザーとの直接的なコミュニケーションを図るケースが増えています。中国市場に進出した日本の化粧品ブランドが、小紅書のインフルエンサーと協力して新商品の認知度を高め、わずか数週間で販売目標を達成した事例もあります。
不動産:内覧動画を通じた効率的なリード獲得
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不動産業界でも、小紅書の活用が急速に広がっています。ある不動産仲介会社では、物件の内覧動画を1分半から5分程度にまとめて小紅書に投稿することで、顧客の興味を引き付けることに成功しました。この動画には物件の内外観、間取り、周辺環境などが具体的に示されており、写真や文字情報だけでは伝えきれない物件の魅力を視覚的に伝えています。
また、小紅書の投稿は、閲覧者との双方向のコミュニケーションを可能にします。ユーザーからのコメントや質問には迅速に回答することで、信頼感を高め、最終的な成約に結び付けています。たとえば、1億円の物件を売却した場合、売り手と買い手からそれぞれ3%の仲介手数料を得られるため、600万円の収益となります。こうした高額の取引では、内覧動画の制作コストが月30万円程度であっても、投資対効果は非常に高いといえます。
さらに、小紅書の特徴であるターゲット層の精度の高さが、不動産業界での活用をさらに推進しています。若年層や中産階級をターゲットとした物件では、小紅書上での動画投稿や広告が顧客の購買意欲を直接刺激し、他のプラットフォームを利用する場合よりも短期間で成約に至るケースが多く報告されています。
HR(採用活動):ターゲットに直接リーチするツール
採用活動においても、小紅書は企業と求職者を結びつける新しいツールとして利用されています。あるHR企業では、小紅書にアカウントを作成し、採用に関する情報を2回投稿しただけで、有望な候補者を数名獲得しました。この企業のフォロワー数は10数人に過ぎなかったものの、投稿内容が小紅書ユーザー層である20代から30代の若年層に適していたため、短期間で成果を上げることができました。
小紅書を採用活動に活用するメリットは、ターゲット層に直接アプローチできる点です。従来の採用プラットフォームでは広範囲な応募者を対象とするため、特定の層に絞ったリーチが難しいケースもありますが、小紅書はそのユーザー層の特性から、採用活動の効率を大幅に向上させることが可能です。
さらに、採用活動においても写真や動画が重要な役割を果たしています。ある企業では、社内の働きやすい環境や社員同士の交流の様子を短い動画にまとめ、小紅書に投稿しました。この動画は数日間で多くのユーザーにシェアされ、結果として企業の認知度向上と応募者の増加につながりました。
日本企業にとっての小紅書の可能性
小紅書は、日本企業が中国市場にアクセスするための重要なプラットフォームとなっています。特に訪日中国人観光客をターゲットとしたプロモーションにおいて、その価値は非常に高いと言えます。具体的には、観光地や飲食店の魅力を視覚的に訴求する投稿を通じて、旅行計画段階での意思決定に影響を与えることが可能です。このような戦略により、旅行客の集客力を高め、地域経済の活性化にも寄与しています。観光地、宿泊施設、飲食店といった業界では、小紅書を通じて情報を発信することで、訪日客の集客や現地での売上増加を期待できるでしょう。
しかし、実際には、小紅書を効果的に活用できていない日本企業のアカウントも少なくありません。アカウントはとりあえず作成したものの、どのようなコンテンツが効果的なのか、ターゲット層に響く投稿の仕方が分からないなど、ノウハウ不足が原因で苦戦しているケースが目立ちます。この背景には、AIの進化が進んでいるとはいえ、文化や消費者行動が大きく異なる中国市場向けの情報発信には、特有の知識や経験が求められることが挙げられます。
たとえば、中国人ユーザーに響く投稿には、地元の隠れた魅力やユニークな体験を視覚的に伝える工夫が必要です。ただし、中国語を正確に使った言語表現や、ローカル文化を理解した上でのストーリー性のある投稿を作成することは、日本国内の一般的なマーケティングチームではハードルが高い場合があります。この課題を克服するためには、以下のようなアプローチが有効です。
専門知識を持つ中国人スタッフの採用
小紅書の運用に特化した外部の専門会社に運用を委託するのも有効な選択肢です。こうした会社は、小紅書に関する豊富な知見と実績を持ち、アルゴリズムの変化や消費者動向にも迅速に対応できます。特に、小紅書では短期間でのトレンドの移り変わりが激しいため、専門的な視点での運用が競争優位性を生むカギとなります。
また、外部委託のメリットは、時間や人材のリソースを節約できる点です。たとえば、不動産業界で成功を収めたある日本企業は、物件の内覧動画を小紅書に投稿するプロジェクトを外部に依頼しました。その結果、プロフェッショナルなコンテンツが作成され、多くのリード獲得に成功しただけでなく、投稿後1か月以内に数件の成約が得られました。このように、専門知識を持つパートナーの協力を得ることで、成果を最大化することができます。
まとめ
小紅書は、単なるSNSや検索エンジンの枠を超えた「生活共有プラットフォーム」として進化を続けています。その信頼性の高い情報提供、多様性を重視したエコシステム、そして多くのビジネス分野での応用可能性は、日本企業にとっても大きなチャンスを提供するものです。日本企業が中国市場で競争力を持つためには、小紅書の特性を深く理解し、継続的に成果を上げられる運用を行うことが求められます。このプラットフォームの活用は、もはやオプションではなく、必須の戦略として認識される時代が来ているのです。今後も小紅書は、ユーザーと企業を結び付ける重要なプラットフォームとして、その影響力を拡大し続けることでしょう。
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