中国EV業界の価格戦争に終止符?BYDが仕掛ける「反内卷」の本気度

中国EV市場は今、価格競争から技術競争へと大きく舵を切ろうとしています。BYDが掲げる「反内卷」戦略は、その象徴とも言える一手です。業界の構造転換と日本企業に広がるビジネス機会を、現地・深センから読み解きます。
吉川真人 2025.06.09
読者限定

おはようございます。中国深セン在住の吉川です。ニュースレターの読者様限定で先にお伝えしますが、実は先週私の誕生日である6月3日にこっそり自社ブランドのECサイト『Wiseelabショップ』をオープンしました。

こちらでは、日本にありそうでまだ手に入らないガジェットや日本のA社やC社よりも小さい充電器の開発、GPU搭載した次世代型マルチディスプレイ(最大4枚同時接続、TypeC1本のみ)を随時販売していく予定です。以下のツイートに出てくるディスプレイは弊社の目玉商品ですのでお見知り置きください!

吉川真人🇯🇵深セン
@mako_63
深センの土曜日はオフィスに篭って一人で黙々と作業するに限りますね🚗
2025/06/07 15:32
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さて、深センに住んで6年になりますが、日々の通勤で街中を走っていると、中国の電気自動車業界の激変ぶりを肌で感じます。数年前まではテスラの独壇場だった高級EVセグメントに、今では数え切れないほどの中国ブランドが参入し、まさに戦国時代の様相を呈しています。街角のあらゆる場所にEV充電ステーションが設置され、マンションの駐車場でも住民たちがEVを充電している光景が日常となりました。そんな中、2025年6月6日に重慶で開催された中国汽車論壇で、BYD集団の李云飞ブランド・広報総経理が発した「反内卷」宣言は、業界の転換点を示す重要な発言として注目を集めています。

BYDが提唱する「反内卷」四原則の意味するもの

李云飞氏が提示した四つの原則は、現在の中国EV業界が抱える構造的な問題を浮き彫りにしています。第一に「消費者への責任として誇大宣伝の拒否」、第二に「量産を基準とした透支式マーケティングの拒否」、第三に「技術と製品で競い合い、陰湿な競争や他社批判への抵抗」、第四に「デマ等の行為への対策」です。

ここで言う「内卷」とは、過度な競争により全体の効率が低下し、参加者全員が疲弊してしまう状況を指す中国発の概念です。筆者が日々深センのテック業界関係者と話していて感じるのは、EV業界がまさにこの状況に陥っているという危機感です。深センのハイテク企業が集まるエリアで開催される業界会合に参加するたびに、「もうこの競争は持続不可能だ」という声を頻繁に耳にするようになりました。

特に印象的なのは、BYDの王传福董事長が社内に「他社を貶めるな」と指示していることです。今年3月のBYD「メガワット級超急速充電*1」技術発表の際、従来他社が行っていた競合企業名を明記した比較表ではなく、企業名を伏せた形で発表したエピソードは、同社の姿勢変化を象徴しています。これは単なる広報戦略の変更を超えて、業界全体の健全化に向けた重要なメッセージと捉えるべきでしょう。

*1 1メガワット(MW)は100万ワットに相当し、大規模な電力供給に使われる単位です。EVの急速充電でこのクラスの出力を指す場合、非常に高速かつ大容量の充電を意味します。

筆者が深センの複数のEVディーラーを回って感じるのは、販売現場の混乱です。あるNIOの販売店では「毎週のように価格や販促内容が変わるので、お客様への説明が非常に困難」という声を聞きました。理想汽車のショールームでも「競合他社の新発表に対応するため、急遽キャンペーンを変更することが日常茶飯事」という状況が続いているとのことです。

価格戦争の背景にある深刻な業界疲弊

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続きは、5660文字あります。
  • 業界リーダーたちの危機感と対応策
  • 政府の介入と業界の自主規制強化
  • 技術革新による差別化戦略への転換
  • 新興企業の淘汰と業界再編の兆し
  • 海外展開戦略と国内市場の関係
  • 今後の業界展望と課題
  • 技術革新への投資継続の重要性
  • 消費者価値の再定義
  • 結論と今後への提言

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