35歳の壁はAIでさらに高くなる...中国テック人材が向かう次の職場とは何処?
おはようございます。中国深セン在住の吉川です。
中国テックを見ていると、昔から語られてきた35歳問題が、ここにきて少し質を変えています。以前は、若い人材を好む大手IT企業の雇用慣行、長時間労働、家族形成との両立の難しさといった話が中心でした。もちろんそれらは今も強く残っています。ですが最近は、そこにAIが加わりました。しかも、AIが人間を一気に置き換えるという単純な話ではありません。少人数で回せる工程が増え、若手と中堅の境目にあった仕事が薄くなり、管理職手前で積むはずだった経験まで圧縮され始めています。世界のテック業界では、AI投資と人員削減が同時に進んでいるという報道が相次いでいますが、この流れは中国でも他人事ではありません。むしろ中国の方が、もともとの流動性が高いぶん、影響が早く表に出やすいです。
35歳問題は年齢の話ではなく設計の話
中国の35歳問題は、年齢そのものの話として語ると少しずれます。本当は、企業が若い時期の高い出力をどう使い、どの時点で人材を外へ流していくかという設計の話です。大手IT企業は大量採用を続ける一方で、仕事を細かく分け、代替可能な形に整え、誰か一人が不可欠にならないようにしてきました。
その構造の中では、年齢が上がること自体が問題なのではなく、給与が高くなり、家庭を持ち、働き方の柔軟性が落ちる人材を、若手と同じ密度で回し続けにくくなることが問題になります。35歳はその節目として意識されやすいだけです。中国でこの線が強く見えるのは、雇用の出口が日本よりはるかに市場化されているからです。
そこにAIが入ると、話はさらに厳しくなります。中国の職場で起きているのは、いきなり全員がAIに置き換わるというより、まず業務の一部がAIで代替可能になることです。文章の下書き、コードの補完、資料整理、検索、QA、社内ナレッジの応答、議事録作成、簡単な分析。こうした仕事は、昔なら中堅社員や若手管理職候補が引き受けながら、会社の中で経験値を積んでいく場所でもありました。
ところが、AIがそこを薄くすると、企業は同じ仕事をより少ない人数で回そうとします。人を完全に切らなくても、採用を減らし、補充を止め、評価を絞るだけで、組織の年齢構成はすぐに若返ります。AIは解雇の代替というより、自然淘汰を早める装置として機能しやすいのです。
中国でもAIを理由に好き勝手に解雇できるわけではありません。北京の労働仲裁案件では、企業がAI導入を理由に特定のポジションを廃止して労働契約を終わらせようとしたものの、仲裁側はそれを違法と判断しました。AI導入は企業の自主的な経営判断であり、不可抗力や予見不可能な重大事情の変更には当たらないという整理です。
つまり、法的には歯止めがあります。ただ裏返せば、それだけAIを口実にした雇用調整が増えているからこそ、司法と実務が反応し始めているとも言えます。政策側もかなり敏感で、人力資源社会保障部はAIの雇用影響への対応を打ち出し、第15次五カ年計画の草案にも、AIが雇用に与える影響を調査し対応する仕組みが盛り込まれました。現場の不安は、もはや気分の話ではなくなっています。
残る人はより少なくなる

では、その中で35歳を過ぎた中国テック人材はどこへ向かうのか。まず残る人はいます。上級専門職、技術責任者、管理職です。ただし、これはかなり少数です。技術が強いだけでは足りず、社内調整力、話す力、上司との相性、担当事業の運まで必要になります。中国でも日本でも同じですが、会社の中で上に行くほど、実力だけでは説明しにくくなります。
違うのは、中国の方が残れる人数がずっと少ないことです。日本の大企業なら、役割を変えたり、関連会社に移ったり、専門職で長く残る余地がまだありますが、中国の大手IT企業はそこがかなり薄いです。AIがその選別を早めれば、上に残る人の比率はさらに下がりやすいです。人数を一気に減らさなくても、AIを使える少数精鋭に寄せる方が、企業にとっては合理的だからです。 日本のウィンドウズ2000と揶揄される窓際族はさぞかし幸せなことでしょう。
しかも、ここで見落としやすいのは、技術力が高ければ自然に上へ上がれるわけではないことです。中国のテック企業を見ていると、強いコードを書ける人、深いシステム理解を持つ人、いわゆるギーク系のオタク気質の強い人は実際かなり多いです。

ただ、そういう人の中には、いわゆるベシャリが得意ではない人も少なくありません。会議で場を取りに行く、上司にわかりやすく成果を見せる、周囲を巻き込んで自分の案件を前に進める、衝突をうまく処理する。こうした能力は、技術力とは別のものです。中国の大手IT企業は組織が大きく、スピードも速いため、無口でも圧倒的な成果で押し切れる人より、技術に加えて説明力や社内営業力を持つ人の方が残りやすいです。
AIが進むほど、単に実装ができる人の価値は相対的に下がり、構想を作り、他者を動かし、AIを使いながら成果物に変える人の価値が上がります。そうなると、ギーク系の強い技術者ほど、実力があっても上に残れないという逆説はむしろ増えていくはずです。残る人が少ないというより、残れる能力の組み合わせが以前よりかなり偏ってきている、と言った方が実感に近いです。
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