「返品するなら地球に払え」─ 返品率7割のPatagoniaが中国ECに突きつけた問い

米アウトドアブランドPatagoniaが中国天猫旗艦店で「地球使用費」を開始。返品率69.7%の実態、中国EC全体に蔓延する"気軽な返品文化"の構造問題、そして日本企業への示唆を深セン在住の現地目線で読み解きます。
吉川真人 2026.04.06
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おはようございます。中国深セン在住の吉川です。

4月に入り、深センもいよいよ本格的な夏の気配が漂い始めました。こう暑くなってくると、新しい夏服でも買おうかなとスマホで天猫や淘宝を開く方も多い季節ですが、今回はまさにそんな「ネットで服を買う」という行為そのものに一石を投じたブランドの話をお届けします。

「退貨無理由、地球有代価」─ Patagoniaの宣戦布告

2026年3月30日、米アウトドアブランドのPatagonia(パタゴニア)が、中国の天猫旗艦店でひとつの告知を出しました。タイトルは「退貨無理由、地球有代価(返品は自由、でも地球には代価がある)」。

4月の「地球月(Earth Month)」に合わせて、新たな運賃ポリシー「地球使用費」を導入するというのです。

仕組みはシンプルです。消費者が天猫旗艦店で注文すると、商品代金とは別に包装・物流費用として「1点目15元(約300円)、追加1点ごとに5元」が徴収されます。商品を気に入ってそのまま手元に置く場合、この費用は24時間以内に全額返金。一方、返品する場合はこの費用は返金されず、全額がSEE基金会の「1%地球税」環境保全プロジェクトに寄付されます。

つまり、「買って残すならタダ、返すなら地球に払ってね」という設計です。

金額自体は15〜20元程度と大きくはありませんが、中国のEC消費者にとっては、これまで「当たり前」だった無料返品の常識を真正面から問い直すメッセージでした。

返品率69.7%「試着室がわりのEC」という現実

Patagoniaがこの施策に踏み切った背景には、凄まじい数字があります。

同ブランドの公式発表によると、2025年の双11(独身の日セール)期間中、天猫旗艦店から発送された荷物は16,179個。そのうち返品として戻ってきた荷物は11,277個。返品率は実に69.7%に達しました。10人が注文したら7人が返品する計算です。

さらに2023年から2025年にかけて、発送に伴う炭素排出量は190.36トン、返品に伴う炭素排出量は40.9トン。合計すると、ガソリン車が地球の赤道を31.4周した分の排出量に相当するといいます。

ただし、この数字はPatagoniaだけが突出しているわけではありません。中国EC市場全体が、いま「返品地獄」とも言える状況に陥っています。

CCTVの報道によれば、2025年の双11期間における中国EC全体の総合返品率は61.5%。服飾のライブコマース分野に至っては80%を超えています。ある業界団体の調査では、女性向けアパレルの平均返品率は2019年の30%から、2025年には65〜80%へと倍以上に急騰しました。

もはや「買ってから考える」が中国ECのデフォルトになっているのです。

深セン生活で実感する「返品のハードルの低さ」

実はこの「気軽に買って、ダメなら返す」感覚は、私自身、深セン在住者として日常的に肌で感じていることです。

中国で暮らしていると、消費者としては正直「便利すぎる」と思う瞬間があります。ECで気になる商品をポチッと買って、届いたものが思っていたのと違ったら、アプリで返品手続きをすれば宅配業者が自宅まで取りに来てくれます。この手軽さは、日本のEC体験とは次元が違います。

以前、知り合いの中国人が冗談交じりにこう言っていました。「上着を20着くらい注文して、届いたら全部試着する。その中から1〜2着だけ選んで、残りは全部返品すれば、わざわざ店に行かなくても自分にぴったりの服に出会える」と。効率がいいのか悪いのかはさておき、そういう使い方もあるのかと感心すらしたものです。当時は「日本にはない中国の良いところだ」とすら思っていました。

しかし今となっては、これは「悪い習慣」としか言いようがありません。

私自身は普段あまりオンラインで服を買わないのですが、よくECで服を買う方の話を聞くと、「届いてみたらサイズがちょっと小さかった」「思っていた色と違った」といったことは日常茶飯事のようです。

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