中国AIエージェント市場に激震、Skywork Super Agentsとは何者か─“卷王”が切り拓く次世代ビジネスと日本企業への示唆

中国AI業界が急成長する中、注目を集めるのが昆仑万维のAIエージェント「Skywork Super Agents」。文書やWeb生成に強みを持ち、中国メディアからは“卷王”と称賛。本稿ではその実力と日本企業への示唆を深センから解説します。
吉川真人 2025.05.26
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おはようございます。中国・深セン在住の吉川です。先週は少し特別な機会があり、湖北省西端の少数民族の街「恩施」、さらにその西に位置する「利川(リチュアン)」市に滞在しておりました。各国から集まった外交官や旅行会社の方々、モデル、インフルエンサーなどが一堂に会する「China Travel」のイベントにご招待いただき、中国の多面的な魅力を改めて学ぶ貴重な経験となりました。

さて今回は、現在PRのご依頼をいただいている、中国発のAIエージェント「Skywork Super Agent」についてご紹介いたします。私自身も実際に操作しながら、その使い方を学んでいるところです。

せっかくなので、このニュースレター自体もSkywork Super Agentを使って作成してみました。文章生成や情報整理の精度、そして操作の直感さなど、その実力をぜひ最後までご覧いただき、ご体感いただければと思います。

文末には招待リンクもご用意しておりますので、ご興味のある方はぜひ登録して試してみてください。

それでは、どうぞお楽しみください。

***

中国の人工知能市場において、AIエージェント(中国語で「智能体」)分野が急速な発展を遂げ、熾烈な競争が繰り広げられています。特に最近、中国のテクノロジーメディア凤凰网科技の記事『Agent又来了一个卷王』で「卷王」(市場を席巻する圧倒的強者、ゲームチェンジャーの意)と評された昆仑万维(Kunlun Tech)の「Skywork Super Agents」は、その象徴的な存在と言えるでしょう。本稿は、このSkywork Super Agentsの登場を軸に、中国AIエージェント市場の最新動向、核心的な競争要因、そして日本企業にとってのビジネスチャンスや留意点について、深い洞察と実用的な示唆を提供することを目的としています。

Skywork Super Agentsと昆仑万维の紹介

昆仑万维は、もともとゲーム事業で成長を遂げましたが、近年はAI分野への大胆な事業転換を進めているテクノロジー企業です。同社は、Operaブラウザなどの海外事業も展開しており、グローバルな視点も持ち合わせています。その昆仑万维が2025年5月22日に発表したSkywork Super Agentsは、オフィス業務の効率化を主眼に置き、文書作成、プレゼンテーション資料作成、Excel処理から、ポッドキャストやウェブページの生成に至るまで、マルチモーダルなコンテンツ生成能力を持つ最新のAIエージェントです。昆仑万维の会長兼CEOである方汉氏は、このSkywork Super Agentsを、実用性を徹底的に追求し、AIの恩恵を一般ユーザーに届けるための戦略的プロダクトと位置づけています。

本稿の構成と分析スコープ

今回のニュースレポートでは、主に前述の凤凰网科技の記事及び方汉CEOへのインタビュー内容、そして関連する中国ビジネストレンドに関する公開情報業界レポートを参考に、Skywork Super Agentsの技術的特徴、市場へのインパクト、そして中国AIエージェント市場全体の競争構造を多角的に分析します。具体的には、まず中国AIエージェント市場の最新動向と、その中でSkywork Super Agentsがどのような位置づけにあるのかを解説します。
次に、Skywork Super Agentsが「卷王」と評される理由を技術的側面と市場インパクトから深掘りし、方汉CEOの戦略的洞察も交えて考察します。続いて、現在のAIエージェント市場における主要な競争ポイントを整理し、最後に、これらの分析を踏まえ、日本企業がこの急速な変化から何を学び、どのように対応していくべきかについて提言を行います。

中国AIエージェント市場の最新動向と「Skywork Super Agents」の位置づけ

Agent技術の進化と中国市場の概況

中国におけるAI Agentの発展経緯と現状

2023年以降、大規模言語モデルの飛躍的な進化を背景に、AIエージェント技術は中国で急速な進展を見せています。AIエージェントは、単にユーザーの指示に応答するだけでなく、自律的に環境を認識し、計画を立て、タスクを実行する能力を持つことから、次世代のAIアプリケーションの中核として期待されています。調査会社のレポートによれば、中国のAIエージェント市場規模は2023年に554億元に達し、2028年には年平均成長率(CAGR)72.7%で8,520億元に拡大すると予測されています(头豹研究院『2024年中国AI Agent行业研究』)。

現在の主要な技術トレンドとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 自律性の向上:より複雑なマルチステップのタスクを、人間の介入なしに計画・実行する能力。

  • マルチモーダル対応:テキストだけでなく、画像、音声、動画など多様な情報を処理・生成する能力。

  • 特定タスクへの特化:汎用的な能力に加え、特定の業務や業界ニーズに深く対応する専門性。

  • Deep Research能力の統合:広範な情報源から信頼性の高い情報を収集・分析し、アウトプットの質を高める能力。

主要プレイヤーと開発動向

中国のAIエージェント市場では、既存の巨大テック企業と新興スタートアップが入り乱れて激しい開発競争を繰り広げています。主要プレイヤーとしては、以下のような企業が注目されます。

  • 百度(Baidu):「文心(ERNIE)」大モデルを基盤とした「文心智能体平台 AgentBuilder」 (百度文心智能体平台) を提供し、開発者が容易にAIエージェントを構築できる環境を整備しています。

  • アリババ(Alibaba Cloud):「通义千问(Tongyi Qianwen)」モデルを核に、多様な業界向けのAIエージェントソリューション開発を推進しています。

  • テンセント(Tencent):ゲームやソーシャル分野での強みを活かし、エンターテイメントやコミュニケーション領域でのAIエージェント活用に注力していると見られます。

  • 昆仑万维(Kunlun Tech):本稿で詳述するSkywork Super Agentsで市場に大きなインパクトを与えています。

  • 注目スタートアップ:凤凰网科技の記事でも言及されたManus AIやDeepSeek AIなど、独自の技術やアプローチで急速に存在感を高めている企業も多数存在します。Manus AIは、その汎用性と実行能力の高さで、招待コードが高額で取引されるほどの人気を博しました(note 吉川真人「招待制から一気に開放へ、ManusがAIエージェントを一般公開」)。

各プレイヤーは、汎用型エージェントで幅広いユーザー層を狙う戦略と、特定用途に特化したバーティカルなソリューションで専門性を追求する戦略を使い分けています。また、BtoB市場における業務効率化支援と、BtoC市場における新たなユーザー体験の創出の両面で開発が進められています。

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続きは、10123文字あります。
  • Agent市場における核心的競争ポイント
  • 日本企業への示唆と考察
  • まとめと今後の展望

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