テンセント本社前に1,000人の行列─OpenClaw無料インストールが映し出す中国「AI秘書」時代の足音

深センのテンセント本社前に突如できた長蛇の列。その目的は、まさかの「AI無料インストール」でした。OpenClaw狂騒曲の現場から、中国で一気に現実味を帯びるAIエージェント時代の熱気と、その先にある働き方の変化を読み解きます。
吉川真人 2026.03.09
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おはようございます。中国深セン在住の吉川です。

先日、中国SNSだけではなくXで話題になっていたイベントがありました。それは深センのテンセントのビルの前に普段は見かけないような長い行列がです。「採用イベントでもやっているのかな」と思いましたが、お年寄りからベビーカーを押す若い親御さんまで、さまざまな方が並んでいらっしゃるのです。
目的は「AIの無料インストール」とのこと。深センに住んで何年にもなりますが、テック企業のビルの前にこれほど幅広い年代の方が集まっている光景は、旧正月明けの開工利是(始業日の紅包配り)以来ではないかと感じました。

吉川真人🇯🇵深セン
@mako_63
深センでテンセントの前でOpenClawの無料セッティングの公益事業やってて面白い。老人も来てたらしい笑
2026/03/06 23:15
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今週は、このテンセント本社前で起きたOpenClawの無料インストールイベントを起点に、いま中国で爆発的に広がる「AIエージェント」の波と、その先に見えてくる「1人にAI秘書が4〜5体つく時代」の可能性について、お伝えしたいと思います。

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OpenClawとは何か─「答えるAI」から「動くAI」へ

まず、OpenClawについて簡単にご説明させてください。

OpenClawは、オーストリアのプログラマー、ピーター・スタインバーガー氏が開発したオープンソースのAIエージェントです。マスコットは青いロブスターで、中国では「小龍蝦(シャオロンシア)」の愛称で親しまれています。

従来のChatGPTやGeminiが「質問に答える」対話型AIであるのに対し、OpenClawのスローガンは「The AI that actually does things」、つまり「本当に仕事をしてくれるAI」です。自然言語で指示を出すと、ファイル操作やブラウザの自動操作、APIの呼び出し、複数ステップにまたがるタスクの連携などを、実際にユーザーのPC上で実行してくれます。

2026年1月末にGitHubで公開されて以降、わずか100日足らずでLinuxを超えてGitHubスター数の歴史的首位に立ちました。まさに今年のAI領域で最も注目されているプロジェクトのひとつです。

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テンセントの前に1000人─「養蝦」イベントの全貌

3月6日、深セン南山区にあるテンセント大厦の北広場で、テンセントクラウドがOpenClawの無料インストールイベントを開催しました。

腾讯云のLighthouseチームのエンジニアの皆さんが、一般のユーザーに対してOpenClawの「装(インストール)」から「玩(活用)」までをワンストップで提供するというものです。具体的には、クラウドサーバーへのデプロイ、AIモデルの設定、企業微信・QQ・飞书・钉钉といった主要メッセンジャーアプリとの連携、さらにはOpenClawの人気Skills(拡張スキル)の導入までを、すべて無料で行いました。

界面新聞の報道によれば、当日は近1,000名の開発者やAI愛好者がテンセント大厦の前に列をなしたそうです。午前10時に第一波の80名あまりが並び始め、11時には数百枚の予約番号がすべて配布完了。わずか数時間のうちに数百のOpenClawインスタンスがテンセントクラウドのサーバー上にデプロイされました。

参加者の年齢層も非常に幅広く、2歳のお子さんから60代の方まで。お子さんやお孫さんの代わりにサービスを受け取りに来たご年配の方の姿も多かったといいます。

そしてユニークだったのが、テンセントが参加者に「小龍蝦出生証明」を配布したことです。これはOpenClawの「出生証明書」で、小龍蝦の名前、家庭住所、家長の名前、出生日時、出生場所、出生順位といった項目が記されています。遊び心たっぷりの演出ですね。しかも住所はテンセントクラウドとはっきりと書かれています。

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「公益」の裏側─テンセントクラウドへの巧みな導線

さて、ここで少し立ち止まって考えてみたいのが、テンセントはなぜエンジニアを総動員してまで無料イベントを開催したのか、という点です。

結論から申し上げると、狙いはテンセントクラウドへのユーザー誘導です。

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続きは、4269文字あります。
  • 「ターミナルで挫折する人」を救うKimi Claw
  • 「龍蝦百花繚乱」─大手企業が一斉参入
  • 「1人にAI秘書4〜5体」の時代は来るのか
  • 日本企業への示唆
  • 筆者プロフィール

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