中国EV業界で“淘汰の波”が本格化─哪吒汽車の破綻が意味するものとは

かつて中国EV市場で販売台数トップに立った哪吒汽車が、ついに破産再建手続きに入りました。業界再編が進む中で明らかになった、競争力なき新興企業の限界とは
吉川真人 2025.06.16
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おはようございます。中国深セン在住の吉川です。

先日、人生で初めて交通事故に遭ってしまいました。中国の道路は日々の生活のなかでもっとも神経を使う場所のひとつで、私はいつも「ここは戦場だ」と自分に言い聞かせて安全運転を心がけておりますが、さすがに相手の不注意までは避けきれませんでした。

当ててきた運転手からは「200元払うから、これで示談にしよう」と言われましたが、今回は相手に100%の過失があったので、「せっかくだから相手の保険を使って修理してみよう」と思い立ち、保険会社とのやり取りに踏み切りました。ところがこれが想像以上に面倒くさい……。保険会社に電話をかけ、写真を送り、現場確認を待ち、修理工場と連携を取って……と、細かい工程がいくつもあり、つくづく「何事も経験だな」と感じております。とほほ。

さて、本題に入ります。

新興EVメーカーの象徴だった哪吒汽車が、ついに破産再建へ

2025年6月13日、中国政府が運営する「全国企業破産重整案件信息網」において、哪吒汽車(ナタ汽車)の母体企業である「合衆新能源汽車股份有限公司」に関する破産審査案件の情報が新たに公開されました。この情報によると、破産管理人には浙江省の法律事務所である「浙江子城律師事務所」が選任されており、破産再建の手続きが正式に開始されたことになります。つい数年前まで「造車新勢力」の希望の星として脚光を浴びていた同社の転落劇は、中国自動車業界のみならず、サプライチェーンに関係する多くの企業関係者に大きな衝撃を与えています。

哪吒汽車は、2018年6月にブランドとして正式に発表された、比較的新しい電動車ブランドです。社名に使われている「哪吒」は、中国古代の神話に登場する若き英雄の名前であり、反骨精神や自立心の象徴とも言われています。ブランドとしてもそのイメージを前面に押し出し、主に若年層をターゲットにしたリーズナブルでハイテク志向のEVを展開してきました。販売価格帯は一般庶民にも手が届く設定で、都市部の中間層を中心に着実にファンを獲得していきました。

とくに2022年は同社にとって飛躍の年となりました。この年、哪吒汽車は年間15.21万台という販売台数を記録し、蔚来(NIO)、理想汽車(Li Auto)、小鵬汽車(XPeng)などの競合を抑えて、“造車新勢力”と呼ばれる新興EVメーカーのなかで販売実績トップに立つ快挙を達成しました。新興勢力のなかでも、特に「地方政府による支援を受けた数少ない成功例」として注目を集めた同社でしたが、その成功は長続きせず、2023年以降、事業環境の急変により一気に失速することになります。

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経営悪化のきっかけ:政策変更と競争激化の波

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続きは、5431文字あります。
  • 給与未払い、口座凍結…経営危機が表面化
  • 上海撤退と事実上の業務停止
  • 国有資本の限界と未達に終わった救済資金
  • 「造車新勢力」からの脱落─中国EV業界に広がる淘汰の波
  • 日本企業への示唆:協業相手の「本質」を見極める力
  • 結びにかえて:変わりゆく中国EV市場をどう読むか
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