SHEINがユニクロを超えた背景とその成功要因:中国発ファストファッションの成長戦略
皆さん、おはようございます。中国・深セン在住の吉川です。約1か月にわたる日本滞在を終え、また深センでの生活に戻ることになりました。日本では多くの方とお会いし、ビジネスや最新の中国事情について意見交換ができたのは貴重な時間でした。その中でも、特に注目が集まったのは「SHEIN」や「TEMU」といった話題。彼らが日本で見せる急成長ぶりや、次なるビジネストレンドに関する意見交換は尽きることがありませんでした。
そして驚くことに、SHEINモデルがいまやメガネ版や家具版といった「領域特化型SHEIN」としてさまざまな業界に広がりつつあります。私の知人の中にはすでにメガネや家具のSHEINをスタートさせた方もおり、世界のサプライチェーンをERPでつなぎ、効率的に自動発注を行うシステムの開発に取り組んでいます。これは今後のビジネスの重要な潮流になっていくかもしれません。
さて、今回のニュースレターでは、先月大きな話題となった「SHEINが日本国内でのオンラインユーザー数でユニクロを上回った」というニュースを掘り下げたいと思います。わずか3年で日本の市場を席巻し、調査会社VALUESのデータによれば、日本のユーザー数はSHEINが804万人に達し、ユニクロの648万人を上回りました。この目覚ましい成長の背景には、SHEIN独自のサプライチェーンの効率化やデータ駆動型の柔軟な生産体制、そしてデジタルマーケティング戦略があります。ニュースレターでは、この成長の秘密や成功要因について詳しく解説していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
1. SHEINの急成長を支えるビジネスモデル
SHEINは、中国国内で確立された高度なサプライチェーンと効率化された生産モデルを日本市場にも適用し、他社よりも迅速にトレンドに対応した商品を供給することで、日本市場でのシェアを急速に拡大しました。この成長の原動力となったのが、同社の「小ロット・高速反応(小単快反)」と呼ばれる独自の生産体制です。
SHEINの本拠地である広東省はアパレル産業の一大集積地であり、同社はこの地理的優位性を最大限に活用しています。広東省には数百のアパレル工場が密集しており、サプライチェーンの垂直統合が進んでいるため、SHEINは製品企画から販売までのリードタイムを劇的に短縮することが可能です。
赤い丸が広東省
この効率化された生産体制の根幹にあるのが、「必要な時に必要な量だけを生産する」というモデルです。SHEINは、AIとビッグデータ分析を活用して消費者の嗜好や市場トレンドを予測し、これに基づいて少量のテスト生産を実施します。100着程度の少量生産で市場の反応を見て、好評であれば短期間で増産、反応が芳しくなければすぐに製品開発を見直すという柔軟な対応を可能にしています。これにより、従来の大量生産モデルとは異なり、在庫リスクや無駄なコストを大幅に削減し、消費者にリーズナブルな価格でトレンド商品を提供することができるのです。
SHEINの生産サイクルは、毎日約3000種類の新商品を市場に投入することで消費者の多様なニーズに応えています。従来のファストファッション企業が、デザインから市場投入までに数週間から数カ月を要するのに対し、SHEINはわずか数日で商品を市場に投入し、トレンドへの対応スピードにおいて業界を大きくリードしています。このように、SHEINの「小ロット・高速反応」モデルは、変化の激しいファッション業界において絶大な競争優位性をもたらしているのです。
2. 日本市場でのSHEINの成功要因
SHEINが日本市場で急成長を遂げた理由の一つに、ターゲット層を明確に絞った戦略があります。SHEINは、特にZ世代といわれる若年層に強く訴求するマーケティング戦略を採用しています。日本のZ世代は、経済の停滞や円安の影響により購買力が低下しており、コストパフォーマンスの高い商品を求める傾向が強まっています。こうした消費者ニーズに対し、SHEINはリーズナブルな価格でトレンド商品を提供し、Z世代のファッション感度の高さと節約志向に応えました。
さらに、SHEINはSNSやインフルエンサーを活用したデジタルマーケティング戦略を積極的に展開し、InstagramやTikTokといったプラットフォーム上でZ世代のファッション感度を刺激しています。SHEINのブランド認知度は急速に向上し、特に若年層にとって「安くておしゃれなブランド」というイメージが確立されました。SHEINがアパレル製品の価格帯を200円〜300円という手ごろな範囲に設定し、ファッションに敏感な若年層が気軽にトレンドを楽しめる選択肢を提供していることも、こうした人気の背景にあります。
筆者が撮影
また、SHEINは2022年に東京・原宿に体験型店舗をオープンし、日本市場での消費者体験を強化しました。この店舗は「展示型」スペースとして、来店者が実際に商品に触れ、試着することができる場を提供しています。SNS映えを意識した店舗内のデザインや、さまざまな打ち出し方が若年層に受け、アプリのダウンロード促進とともにオンライン購入への誘導にも貢献しました。この「触れてみる体験」を重視したマーケティング戦略は、日本市場でのブランド信頼性の構築にもつながっており、SHEINの成長に大きく寄与しています。
3. サプライチェーンの効率化と「小ロット・高速反応」モデル
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- 4. 持続可能性への取り組みと今後の課題
- 5. 今後の展望とSHEINの戦略的課題
- 6. 結論
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