激動の中国ビジネス最前線 – 劉潤が語る「不確実性」を乗り越える未来戦略
おはようございます。中国深セン在住の吉川です。
2025年7月18日(金)、ここ中国広東省東莞市の京東智谷(JD Smart Valley)にて、中国ビジネス界で最も影響力のある人物の一人、劉潤(Liu Run)氏による基調講演「不確実性の中で確実性を見つける」が行われ、運良く私吉川は京東智谷の副総裁のご意向によりご招待いただきました。その最新かつ重要な洞察を、日本の皆様にお届けいたします。
劉潤氏とは? なぜ彼の言葉に耳を傾けるべきなのか

「劉潤」という名前に馴染みのない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中国のビジネス界において、彼の名前を知らない人はいないと言っていいでしょう。彼は単なる経営コンサルタントにとどまらない、多才な知の巨人です。
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中国ビジネス界の「知の巨人」:
中国のSNSプラットフォームでは1,000万人以上、特にビジネス層が利用するWeChatの公式アカウントでは450万人以上ものフォロワーを抱える、まさに「インフルエンサーコンサルタント」。彼の著書はベストセラーとなり、オンラインコースは常に満員。彼の言葉は、中国の経営者や起業家たちの意思決定に大きな影響を与え、多くの企業が彼の提唱する戦略を取り入れています。 -
華麗な経歴と実践的知見:
1976年、江蘇省南京市生まれ。南京大学卒業後、復旦大学でMBAを取得。1999年にはマイクロソフト(中国)有限公司に入社し、後に戦略協力総監を務めました。その後、潤米諮詢(Runmi Consulting)を設立し、創業者としてコンサルティング活動を開始。テンセント、百度、ハイアール、恒基地産、中遠国際、晨興資本、康宝莱など、中国内外の数多くの有名企業の戦略顧問を歴任し、インターネットトランスフォーメーションの専門家としても知られています。 -
「進化的力量」年次講演:
2021年からは毎年10月に「进化的力量(進歩の力)」と題した大規模な年次講演を上海で開催。この講演は、起業家、企業家、管理者向けに、その年の経済・ビジネスの変化を深く分析し、翌年の戦略策定に役立つ具体的な指針を提供する場として、多くの参加者を集めています。 -
多岐にわたる著作とオンライン教育:
『底层逻辑(底層ロジック)』、『商业简史(ビジネス簡史)』、『新零售(ニューリテール)』など、多数のベストセラー書籍を出版。特にビジネスの根本原則を教えるオンライン音声講座『劉潤・5分商学院』は、多くのビジネスパーソンの学びの基盤となっています。
劉潤氏の分析は、数学的思考に基づいた論理的な深さと、長年の実務経験に裏打ちされた実践的な視点を兼ね備えています。彼が提供する情報は、中国という巨大でダイナミックな市場の動きを理解し、貴社の中国戦略を再考する上で極めて重要な示唆に富んでいます。
ビジネスにおける3つの重要な概念:確実性・リスク・不確実性

劉潤氏は講演の冒頭で、現代のビジネス環境を理解するための3つの重要な概念を、わかりやすい例えで説明しました。この概念の理解は、複雑な中国市場で意思決定を行う上で不可欠です。
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確実性(Certainty):
「たとえ今はその方法を知らなくとも、最も効率的で最適な道が必ず存在する」状態を指します。例えば、当日のイベント会場である東莞の京東智谷から深セン宝安国際空港までの最短経路は、物理的に必ず存在します。私たちはそれをすぐに特定できなくても、最短経路が存在すること自体は疑いようがありません。劉潤氏は、コンサルティングの本質は、この「最短経路」を見つけ出し、クライアントに示すことだと述べました。企業が明確な目標を設定し、最適な戦略を追求する際の基盤となる考え方です。 -
リスク(Risk):
「発生する確率を計算できるが、それが具体的に自分に降りかかるかは不確定な事象」です。空港へ向かう途中で赤信号に遭遇する「確率」は分かっても、どの信号が赤になるか、あるいは何回赤信号に遭遇するかを正確に予測することはできません。劉潤氏は、降水確率30%の日に傘を持って出かけるかどうかの判断や、ある航空便の事故発生確率が30%である場合にその便に乗るかどうかといった例を挙げました。これらの例を通して、同じ「リスクの確率」であっても、それがもたらす「結果の深刻度」によって、人々や企業が取る行動が大きく異なることを強調しました。つまり、リスクの確率だけでなく、その影響の大きさを考慮して、対応を決定する必要があるということです。 -
不確実性(Uncertainty):
「発生する確率さえも計算できない、完全に予測不能な事象」を指します。劉潤氏が典型的な例として挙げたのは、2019年には世界中の誰も、翌2020年に世界規模のパンデミックが発生することを予測できなかったという事実です。これは、過去のデータや経験則が全く通用せず、全く新しい次元の事態が突然到来する可能性を意味します。企業がこのような不確実性に直面した際には、従来の予測モデルやリスク管理手法では対応が困難となります。
劉潤氏が強調したのは、企業経営において、特に「不確実性」や「リスク」という、いわば「想定外の事態」に直面した際に、いかにこれらを戦略的に「確実性」へと転換していくか、その思考と行動こそが持続的な成長を実現する上で不可欠である、という点です。これは、単にリスクを回避するだけでなく、未知の領域を探索し、そこから新たな機会を創造する、より能動的かつ積極的な姿勢が企業に求められていることを示唆しています。
企業の成長を解き明かす「劉潤の成長方程式」
劉潤氏は、企業の成長メカニズムを理解するための独自の数学的モデルを提示しました。彼のスライドに示された方程式は、以下の通りです。
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- 加速する高齢化社会の到来と新たな市場ニーズ
- 「後発優位」の終焉と「自主開発」の時代へ
- AI:未来のビジネスを根本から再構築する最大の「構造的機会(β)」
- 「AI優先(AI First)」戦略の提唱
- 結び:不確実性を乗り越え、未来を掴むために
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