結婚はコスパが悪い?中国若者の結婚離れ、その理由とは
皆さん、おはようございます。深セン在住の吉川です。深センもようやく秋に入り、日中は暖かく、朝夕は涼しい、最も過ごしやすいシーズンがやってきました。そろそろランニングを再開して、一時帰国で暴飲暴食を楽しんだツケを払いつつ、なまってしまった体を絞っていこうと思っています。
さて、最近の中国では、結婚数の減少が再び注目されています。その減少幅は世界的にも類を見ない規模で、まさに「結婚の冬の時代」に突入しているといえるかもしれません。ではなぜ、ここまで結婚が遠のいているのか?その背景には、不動産購入や結納金(彩礼)といった「結婚コスト」としての高額な経済的負担があるだけでなく、結婚に対する価値観の変化や、「拝金主義」とも言われる社会的なプレッシャーが絡んでいるようです。
こうした要因が複雑に絡み合う中で、若者たちは結婚を「人生の大きなリスク」として捉えるようになり、特に都市部で「結婚離れ」が加速しています。2024年の統計でもその傾向は顕著であり、中国社会は今、結婚という制度そのものを再考する歴史的な変革期に差しかかっているといえるでしょう。この背景を知ることで、現代中国の若者が置かれているリアルな状況と、その奥に潜む価値観の変化が見えてきます。
中国全国結婚ペア数の統計データ
不動産購入が結婚の前提条件に?若者を悩ませる「結婚コスト」
中国の都市部では、結婚するにあたって「まずは家を持つ」という考え方が浸透しています。この考え方は、結婚が家族や社会の中で一つの地位を築く行為であると同時に、経済的な独立や安定性の証明でもあるとされる文化的背景に由来します。そのため、多くの家庭が「結婚=家の購入」という条件を突きつけることが少なくなく、結婚を望む若者たちは「家を持つ」ことを人生設計の中心に据えざるを得ない状況です。
しかし、この「家を持つ」という条件は若者にとって非常に大きな経済的負担となっています。特に、経済成長が著しい深センや上海、北京といった大都市では、不動産価格が高騰し続けており、住宅を購入すること自体が若者にとってほぼ不可能な目標となっています。
たとえば、深センの中心地で3LDKの住宅を購入する場合、1億円以上が必要とされます。この広さが求められる理由は、結婚生活において夫婦の寝室に加え、将来的に子ども部屋や親族が訪れた際の宿泊スペースを確保するためです。こうした条件が満たされた住宅が「結婚を前提とした理想的な家」とされる一方、そのために必要な資金の用意が現実的に難しいというジレンマが生まれています。
さらに、子育てにかかる費用も、結婚を遠ざける要因となっています。たとえば、深センで子どもを大学まで育て上げるには、学習塾や習い事を含めた教育費が約5000万円にも達すると言われています。これは東京で子どもを育てる場合と同等のコストですが、平均所得が日本よりも低い中国では、こうした費用負担が若者にとって非常に大きなプレッシャーとなります。住宅購入と子育ての費用が「結婚に伴うリスク」としてのしかかり、若者たちは「まずは経済的な安定」を優先し、結婚を見送るケースが増えているのです。
彩礼という文化的ハードル:「結婚の値札」としての存在
中国での結婚においてもう一つ大きな障壁となっているのが、結納金(彩礼)です。
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彩礼とは、新郎側が新婦側に支払う金銭で、地域によって相場は異なるものの、一般的に数百万円から1000万円近くにまで達します。この彩礼は、結婚における「愛情の証」として認識されることが多く、「彩礼の額が多ければ多いほど新婦が大切にされている」といった考え方が根強く存在しています。したがって、多くの親が彩礼の金額にこだわりを見せ、彩礼が一種の「ステータス」として機能している面があるのです。
もはや人身売買に等しい中国の悪習で、2020年に規制されたはずやけど親の世代には根強く残り、面子文化とも深い関係があり、中国で結婚のハードルが高い原因。私が独身なのもこれの影響です(嘘)
さらに、彩礼の金額を巡っては、親族同士で競い合うことも少なくなく、親たちの間では「自分の娘がどれだけ価値があるのか」を見せつける手段として用いられることもあります。彩礼は、本来は新郎側から新婦側への愛情と誠意の象徴であるべきですが、こうした風潮があるために、もはや結婚が純粋な愛情の表現というよりは、彩礼の金額によって「値段が付けられた関係」に見えることも少なくありません。
また、彩礼が新婦の親の懐に入るケースも多く、これはまるで「娘を商品として育て上げ、結婚を機に経済的価値として回収する」ような構図に感じられることがあります。結婚にかかるこの経済的な負担が、若者にとって結婚そのものを非常に重い選択にしているのです。こうした風潮に対して、中国政府も彩礼の過度な要求を抑制するよう表向きには呼びかけているものの、親世代の間では「自分も彩礼を受け取ってきたのだから、子どもも当然もらうべきだ」とする強い信念が根付いており、制度的な変革がなければこの慣習を変えることは難しいでしょう。
結婚時に新郎が新婦の親に渡す結納金で貧しい地域であればあるほど金額が高くなる傾向。
今回寧夏銀川市で新郎が900万円相当の結納金を渡さなかったため新郎新婦が新婦の両親と弟からフルボッコされ大問題。親からすると投資分の回収はしたいと考えるから悪外でしかない
深セン「相亲角」に見る結婚市場の現実
中国の結婚市場の一端を垣間見るため、私は深センにある「蓮花山公園」のお見合いコーナー「相亲角」を訪れたことがあります。ここには、親が子どものために結婚相手を探す目的で作成した「結婚相手募集」の張り紙が壁一面に貼られ、そこに記された条件が驚くほど具体的で厳しいのです。
張り紙には「年収〇〇元以上」「自宅と自動車所有」「高学歴」など、まるで求人広告のように詳細な条件が並び、特に女性側の親が求める条件は厳格です。男性には「三高」(高身長、高学歴、高収入)を求めるケースが多く、家や車を所有していることが最低条件とされることも少なくありません。
このように高い条件が求められる背景には、中国の結婚適齢期における男女比のアンバランスがあります。統計的に見ると、適齢期の男性が女性よりも多く、女性側が「選ぶ側」として優位に立つ傾向が顕著です。
こうした状況下では、女性側の親が相手に厳しい条件を突きつけても、それが受け入れられやすい土壌が整っているため、条件がエスカレートしやすいのです。とはいえ、条件があまりに厳しすぎると、理想の相手がなかなか見つからず、結果的に30代を過ぎても結婚相手に出会えないケースも増加しています。
相亲角に並ぶ張り紙を見ると、相手に求められる条件はまるで「条件付きの商品」を探しているかのようです。こうした張り紙からは、純粋な愛情や人間性よりも、経済力や社会的地位が強く重視されていることが見て取れます。このような状況が、若者たちの結婚に対する熱意を冷まし、「結婚が一生の愛情の結晶ではなく、まるで取引のように感じる」という意識を強めています。
名前 帰国子女映画制作者
97年生まれ、189cm75kg、深セン戸籍の2世
グローバル有名校卒、3ヶ国語精通、健康的イケメン
30作品の映画を作り、新人賞受賞、専門性があり、投資もでき、特に映画事業への投資は神
そんな彼が相手に求めるものは?
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結婚産業の変化:簡素化と「SNS映え」の人気
結婚観の変化は、結婚産業にも大きな影響を及ぼしています。かつては、盛大で豪華な結婚式が一つのステータスとして尊ばれていましたが、近年では「シンプルウェディング」や「デスティネーションウェディング」といった簡素で個性的なスタイルが人気を集めています。特に、小紅書や抖音といったSNSの普及によって、「映える」結婚式や、費用対効果を重視した演出が若者の間で好まれるようになり、限られた予算で最大限の演出を求める傾向が強まっています。
これに関してはネタなのか本気なのか分からないけど、最近は従来の伝統的な結婚式で派手にお金を使わず、カジュアル化することでコストと手間を少なくして新婚旅行にお金を使うケースが増えつつあり、その主力となるのがZ世代。
こうしたトレンドの変化を受け、結婚産業では従来の「情報格差を利用した価格設定」が通用しなくなり、顧客の個別のニーズに応じた柔軟なプランの提供が求められています。たとえば、式場側では、利用者の希望に応じたオリジナルプランを提案し、顧客との対話を通じて要望に応えるサービスが増えています。また、結婚式の会場や宴会場は、結婚式だけでなく企業のイベントやパーティーといった多様な用途に利用され、収益の多様化が進められています。
こうして結婚産業は、より創造的な演出やデザインの工夫、きめ細かなサービスが求められるようになりました。特に中高級市場においては、結婚式が単なる「式」ではなく「ブランド体験」として扱われ、個人のライフイベントをデザインする場としての役割が期待されています。SNSの普及により他のカップルの演出事例が広く共有されるため、消費者の目も肥えており、創意工夫と独自性がますます重要になっているのです。
若者の結婚離れの背景と社会的な対応策
既に上述した通り、中国における結婚離れの背景には、彩礼や不動産の高騰といった経済的な負担が深く関係しています。こうした経済的負担が若者にとって結婚のハードルを高くしている一方で、親世代の価値観や社会の拝金主義的な風潮が、結婚を一つの取引や条件付きの契約としてしまっている現状があります。こうした複雑な問題に対処するためには、政府や自治体が若者の経済的負担を軽減する政策を導入し、家庭を築くための支援体制を整えることが必要です。
具体的な施策としては、新婚家庭への住宅購入補助や、結婚や子育てにかかる費用の一部を支援する政策などが考えられます。こうした取り組みを通じて、結婚や家庭形成に対するハードルが少しでも下がり、若者が前向きに結婚を考えられるような環境が整うことが望まれます。
さらに、結婚を選ばない人々に対する社会的な支援も不可欠です。たとえば、独身でいる選択をした場合でも老後の生活が保障されるような福祉制度や、独身者の共同生活支援などが整備されれば、若者は結婚に縛られることなく、自由な価値観で自らの人生を設計できるでしょう。
結婚が人生の「当たり前」ではなくなりつつある今、結婚の有無にかかわらず多様な生き方が尊重され、充実した人生を送れる社会が形成されることで、若者も親世代の拝金主義的な価値観に縛られず、幸せな人生を追求できるようになるのです。
中国の結婚の未来:新しい時代の結婚観
若者の結婚離れが顕著になっている中で、結婚はただの義務や伝統的なイベントではなく、人生を共に歩むパートナーを見つけるための一つの選択肢であるべきだと感じます。結婚が経済的な条件に左右されるのではなく、愛情と信頼を基盤に築かれる関係であるべきだという考えが、少しずつ広まってきているのです。親世代の価値観に縛られることなく、若者たちが本当に心から信頼し合える相手と出会い、共に支え合いながら歩んでいける社会が理想です。
また、政府や社会はこうした変化を受け入れ、若者が幸せな人生を選択できるように支援することが求められています。中国の結婚文化は確実に変わりつつあり、この変化は新しい時代に適応するための第一歩です。
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