2027年、深圳はロボット都市になる─進む国家実験の正体

深圳市が2027年に向けて進める「ロボット都市」構想を、最新政策改定、北京・上海との違い、市内の産業分業、珠江デルタの供給網、社会実装の課題から読み解きます。人型ロボットの派手なデモでは見えない、深圳が都市全体で作ろうとしているロボット産業の循環と、日本企業が押さえるべき変化を現地視点で整理します。
吉川真人 2026.06.22
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おはようございます。中国・深圳在住の吉川です。

2週間あまり東京と京都に滞在していました。今回はちょうど涼しい時期と重なり、外を歩くのも快適でしたが、深圳へ戻ると気温は30度超え。湿気までたっぷり乗った、いつもの深圳の夏が待っていました。早くも日本の涼しさが恋しくなっています。

ただ、いま深圳で熱を帯びているのは気温だけではありません。ロボットとエンボディドAIをめぐる政策競争も、こちらが想像する以上の速さで動いています。

2026年6月18日、深圳市科技創新局は「深圳市エンボディドAIロボット技術革新・産業発展行動計画(2025~2027年)」の修訂版を発表しました。この計画は2025年3月に公布されたばかりでしたが、深圳市は政策期間の途中で内容を見直し、旧版を廃止して新しい計画へ置き換えています。さすがビルドアンドスクラップの街です。

2027年までに残された時間は、わずか1年半ほどです。それでも計画を更新したということは、単なる文章の修正ではありません。エンボディドAIとロボットをめぐる技術開発、企業間競争、社会実装のスピードが、当初の政策設計を早くも追い越し始めたことを意味しています。

深圳市が2027年までの目標として掲げた数字はかなり大きなものです。関連産業規模を1000億元以上へ拡大し、関連企業を1200社超に増やす。企業価値100億元を超える企業を10社以上、年間売上高10億元を超える企業を20社以上育成し、さらに10億元級の応用シーンを50件以上実現するという内容です。

しかし、この政策で本当に注目すべきなのは、企業数や産業規模だけではありません。深圳が作ろうとしているのは、単にロボットメーカーが集まる都市ではなく、ロボットを開発し、試作し、量産し、街や工場で使い、そこで得たデータを再び開発へ戻す都市です。つまり、ロボットを生産する都市から、ロボット産業が自ら成長し続ける都市への転換が始まっています。

今回のニュースレターでは、深圳がなぜ今、政策を急いで更新したのか。そして同市が2027年までに作ろうとしている「ロボット都市」とは、街中を人型ロボットが歩き回るだけの未来なのか、それとも別の産業構造を指しているのかを掘り下げます。

※エンボディドAIとは、画面の中で文章や画像を生成するAIではありません。カメラやセンサーで周囲を認識し、自ら判断し、ロボットの身体を使って現実世界に働きかけるAIです。中国語では「具身智能」と呼ばれています。

深圳が作ろうとしているのは、一台のロボットではない

ロボット産業というと、華やかなヒューマノイドロボットや、器用に動くロボットハンドが注目されがちです。しかし、実際に一台のロボットを商品として成立させるには、非常に多くの技術と企業が必要です。

関節を動かす小型モーターや減速機、姿勢を制御するサーボシステム、周囲を見るカメラ、接触を感じ取る力覚・触覚センサー、長時間動かすためのバッテリー、複雑な動作を実行するロボットハンド、そして状況を理解して行動を決めるAIモデル。それらが一つにつながって、初めてロボットは現実の仕事を行えるようになります。

さらに、研究室で動く試作機と、工場や商業施設で毎日働ける製品との間には深い谷があります。試作機を作るだけなら、性能の高い部品を集めればよいかもしれません。しかし量産するには、価格、耐久性、故障率、組み立てやすさ、部品供給、検査方法、修理体制まで設計しなければなりません。ロボットが現場で転倒したり、物をつかみ損ねたりしたとき、原因がAIにあるのか、センサーにあるのか、関節にあるのかを切り分ける必要もあります。

今回の深圳市の計画は、この長い工程をほぼ丸ごと政策の対象にしています。小型モーター、一体型関節、電子皮膚、多次元触覚センサー、軽量バッテリー、ロボット向けAIチップ、バイオニック型ロボットハンド、世界モデル、VLAなどの基盤モデルだけでなく、実機データの収集、算力支援、検査・認証、中試、量産、初号機導入、知的財産、業界標準、海外展開までが並んでいます。ここから見えてくるのは、深圳市が「どの企業が最強のヒューマノイドを作るか」だけを競っているのではないということです。

深圳が作ろうとしているのは、アイデアが試作機になり、試作機が製品になり、製品が現場へ入り、現場で生まれた失敗やデータが次の製品へ戻る循環です。この循環が速く回るほど、ロボットは賢くなり、壊れにくくなり、価格も下がっていきます。ロボット単体ではなく、この循環そのものが競争力になり始めています。

北京、上海、深圳は、同じ山を別の斜面から登っている

中国のエンボディドAI産業を理解するうえでは、北京、上海、深圳の違いを見ると分かりやすくなります。よく「北京は頭脳、上海は現場、深圳は身体」と説明されます。大まかな特徴をつかむには便利な表現ですが、実際にはそれほどきれいに役割が分かれているわけではありません。
北京にもロボットメーカーがあり、上海にも部品企業があり、深圳もAIモデルの開発を進めています。三都市はそれぞれ産業全体を狙いながら、異なる強みを出発点にしていると考えた方が正確です。

北京の強みは、大学、研究機関、AI人材、基盤モデル、国家級の研究プラットフォームが集まっていることです。北京市の行動計画でも、世界モデル、マルチモーダル認識、運動制御、具身智能の「大脳」と「小脳」に相当する技術開発が重視されています。新しいロボットの知能を生み出し、技術標準を作るという点では、北京は依然として非常に強い都市です。

上海は、自動車、鉄鋼、造船、物流、商業、医療など、大規模な導入先を多く持っています。上海市の政策では、モデル開発だけでなく、算力、データ、実訓場、テスト、投資、リースという公共基盤を整え、ロボットを実際の工場やサービス現場へ導入することが重視されています。

特にリースは重要です。価格が高く、効果がまだ読みにくいロボットを企業が最初から購入するのは簡単ではありません。そこで、購入ではなく利用料を払う仕組みを作れば、導入のハードルを下げられます。上海は豊富な金融資源と大企業の導入現場を使い、技術を商業運用へ押し出そうとしています。

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続きは、4930文字あります。
  • 深圳市内でも、見えない分業が進んでいる
  • 深圳の強さは、市境を越えたところにもある
  • 2027年に試されるのは、ロボットの性能ではない
  • 深圳は本当に「ロボット都市」になれるのか
  • 筆者プロフィール

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