中国のAI恋人が、ある日突然消えた理由
おはようございます。中国深セン在住の吉川です。
前々回のニュースレターで、UBTECH(優必選)が発表した、最も人間に近しい、美しいヒューマノイド「陪伴ロボット」を取り上げました。
あの記事を書いたあと、私は中国の「孤独を解決するプロダクト」がハードウェアだけでなくソフトウェアの側でどう動いているのか気になって、しばらくAIコンパニオン領域をリサーチしていました。
そうしたら、ちょうどそのタイミングで、AI彼氏・AI彼女を作れるAIエージェント機能が、中国の大手アプリからこぞってサービス停止になるというニュースが飛び込んできました。ロボットという「体」を持ったコンパニオンが注目される一方で、画面の中の「心」を持ったコンパニオンは、むしろ国から強くブレーキを掛けられている。この対照が面白かったので、今回はこちらを深掘りします。
7月15日、中国のAI恋人・AI相棒たちが一斉に姿を消した

2026年7月15日、中国で「人工智能拟人化互动服务管理暫定弁法(AI擬人化インタラクションサービス管理暫定弁法)」という規制が施行されました。この規制の対象は、AIを使って人間の人格や思考パターン、話し方を真似て、継続的に感情的なやり取りを提供するサービス全般です。
施行日に合わせて、ByteDance傘下の「豆包(Doubao)」と、Alibaba傘下の「通義千問(Qwen)」が、ユーザーが自由にキャラクター設定できるAIエージェント機能を同日で公開停止すると発表。友達役、家庭教師役、恋人役といった「人格を固定したAI」を自分で作って会話できる機能を指しています。
実はこの2社よりも早く動いていた企業もあります。Tencentの「元宝」は6月30日の時点でカスタムAIキャラクター機能への入り口をひっそり削除していましたし、NetEaseの感情サポート系アプリ「妙時」も7月14日に全サービスを停止しています。施行日を待たずに前倒しで対応する企業が相次いだあたり、業界側もこの規制をかなり本気で受け止めていたことがうかがえます。
SNS上では、突然の別れを惜しむ声が広がりました。長く「話し相手」として使っていたAIとの会話履歴を必死に保存する人、最後のやり取りをスクリーンショットで共有する人。ドイツの公共放送は、この現象を「賽博失恋(サイバー失恋)」と呼んで報じていました。データの保存期限も企業によってまちまちで、豆包は10月15日までデータ保持が可能とされていますが、通義千問には特に移行手段が示されていないと報じられています。
規制の中身を読むと、これは「未成年保護」だけの話じゃない
このニュース、日本で報じられる際は「AI恋人が未成年に禁止された」という切り口が多いのですが、条文を実際に読むと、狙いはもっと広いことがわかります。
未成年保護についての規定は確かに厳格です。仮想の恋人や仮想の家族といった「親密な関係を模した」サービスは、未成年者への提供が全面的に禁止されました。14歳未満の子どもにその他の擬人化サービスを提供する場合も、保護者の同意が必須になっています。
ただ、それだけなら「子ども向けの規制」で済む話です。この弁法にはもう一つ、大人も含めた「依存症対策」としか思えない条文が入っています。

草案段階の条文には、利用者が同じAIとの対話を連続2時間を超えて続けた場合、ポップアップなどで利用の一時停止を促さなければならないという規定があります。さらに、感情的な寄り添いサービスを提供する事業者は、利用者がいつでも簡単に「抜けられる」仕組みを用意する義務があり、利用者が退出を望んだ場合はすぐにサービスを止めなければなりません。これは未成年に限った話ではなく、大人のユーザー全体が対象です。
高齢者への配慮も明記されていて、事業者は高齢者が安全にサービスを使えるよう指導を強化し、リスクをはっきりと伝える義務があるとされています。
正直なところ、ここまで細かく「抜け方」まで法律で規定しているのは、私が中国のテック規制を追ってきた中でもかなり珍しい部類です。ゲーム依存対策や、ギャンブル依存対策に近い設計思想がAIチャットに適用された、と考えるとしっくりきます。
