テスラ完全自動運転システムFSD、2025年に中国進出へ本格始動か

テスラの完全自動運転システムFSDが、2025年の中国市場導入を目指して再び注目されています。今回は、現地で進む公道テストの状況や、バス専用レーンやデータ規制といった課題を詳しく解説。さらに、現地メーカーとの競争が激化する中、FSD導入によってテスラが中国市場で再び競争力を高める可能性についても取り上げます。
吉川真人 2025.02.03
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おはようございます。中国深圳在住の吉川です。現在、中国は春節(旧正月)の真っ只中で、深圳も普段とはまったく異なる光景が広がっています。深圳は他省から移住してきた人たちが多く住んでいる都市のため、春節の帰省シーズンになると、コロナ期間を除いて街から人がほとんどいなくなります。そのため、場所によっては急にゴーストタウンのような静けさに包まれ、普段の喧騒から離れてリフレッシュするには良い機会ですね。

さて、最近は米中でテクノロジー領域が良くも悪くも盛り上がっています。Tiktokをめぐる規制問題や、新たな検索技術を持つDeepSeekの話題が注目される中、テスラのFSD(完全自動運転システム)が中国市場に導入されるというニュースが再び注目を集めています。今回はこのテスラFSDに関する話題を取り上げたいと思います。

イーロン・マスクがFSD導入計画を発表

2025年1月30日、テスラ中国は2024年の業績報告を発表しました。イーロン・マスクはインタビューで、2025年にFSD(完全自動運転システム)の中国およびヨーロッパ市場への導入を目指していることを明かしました。これにより、テスラは自動運転技術において世界的なリーダーシップをさらに強化しようとしています。中国国内では、FSDが公道でテストされているとの情報がSNS上で拡散されており、現地での展開に向けた技術的な準備が進んでいることが示唆されています。

FSDとは何か?

FSD(Full Self-Driving)は、テスラが開発した完全自動運転システムで、人工知能と高度なセンサー技術を駆使して、人間の介入なしで車両を安全に運行することを目指したものです。FSDの開発は2020年から始まり、現在も多くの改良が加えられています。以下のような主要機能によって構成されています。

① 環境認識機能

FSDは、車両周辺の環境をリアルタイムで認識するため、複数のカメラ、レーダー、超音波センサーを搭載しています。これらのセンサーは、他の車両、歩行者、自転車、信号機、標識など、道路上のあらゆる要素を検出します。このデータはAIによって即座に分析され、車両の動きを最適化します。

② 経路計画と意思決定

認識された情報を基に、FSDは目的地までの最適なルートを自動で計画します。具体的には、交通状況、信号のタイミング、車線変更の必要性、合流のタイミングなどを考慮して運行ルートを決定します。また、急な交通トラブルや予期せぬ障害物が出現した場合も、人工知能が状況に応じて瞬時に判断を下し、安全に回避する機能を備えています。

③ 車両制御機能

FSDは、車速や方向、ブレーキ操作を自動的に管理します。例えば、渋滞時には車間距離を適切に保ちつつ、スムーズな停止と発進を繰り返すことが可能です。また、高速道路では、車線変更や出口の自動案内機能が実装されており、ドライバーが一切ハンドル操作をしなくても安全に移動できることを目指しています。

④ データ学習と進化

FSDはディープラーニングを用いており、走行データを基に継続的に進化します。世界中のテスラ車両から収集された膨大なデータがAIの学習に活用されており、特に複雑な都市部の道路環境においても適応力を高めています。これにより、システムが様々なシナリオを想定して最適な判断を行えるよう改良が重ねられています。

⑤ 機能の発展状況

テスラは2021年に都市部でのナビゲーション機能(Navigate on Autopilot)を初めて実装し、その後も段階的に新機能を追加しています。しかし、現時点ではまだベータ版として運用されており、監視付きの運転を必要としています。テスラは今後、完全な無監視版のFSDを展開するため、さらなるデータ収集と技術開発を進めています。

ナビゲーション機能(Navigate on Autopilot)とは?

ナビゲーション機能(Navigate on Autopilot)は、テスラの自動運転支援機能の一つであり、高速道路上で特に威力を発揮します。この機能は以下の操作を自動化します。

・自動車線変更
・インターチェンジや出口でのルート選択
・前方車両との適切な車間距離の維持
・自動合流や分岐

ドライバーはナビゲーションシステムで目的地を設定するだけで、車両が自動的にルートを選択し、適切なタイミングで進路を変更します。ただし、現時点ではドライバーがシステムを常に監視し、必要に応じてハンドルやブレーキを操作することが求められるため、L2(部分自動運転)の範囲内にとどまっています。
ちなみに、私も深圳で普段からテスラ・モデル3を愛用していますが、交通ルールが独特かつアナーキーなことも多い中国では、自身の運転スキルが鈍ってしまうことを懸念して、オートパイロット機能はあえて使用していません。

自動運転レベルの定義(L1〜L5)

自動運転のレベルは、SAE(米国自動車技術者協会)によって以下の5段階に分類されています。

L1(運転支援)
・車両に単一機能の支援(例:自動ブレーキ、アダプティブクルーズコントロール)
・ドライバーが常に運転を制御

L2(部分自動運転)
・複数の運転支援機能(例:車線維持と速度調整の同時実行)
・ドライバーがシステムを常時監視し、即時操作できる状態を維持する必要あり
・一言で表すと『ハンズオフ』

L3(条件付き自動運転)
・一定条件下でシステムが運転を完全に担当(例:特定の高速道路区間)
・ドライバーは条件外での操作介入が必要
・一言で表すと『アイズオフ』

L4(高度自動運転)
・特定条件(地理的範囲、天候条件など)の下で完全自動運転
・システムがすべての操作を担当し、ドライバーは不要
・条件外では手動運転に切り替える必要あり
・一言で表すと『ブレインオフ』

L5(完全自動運転)
・あらゆる状況で完全自動運転が可能
・ドライバーやハンドルが不要

テスラのFSDは、将来的にはL4またはL5を目指していますが、現時点ではまだL2〜L3の段階にあるとされています。

イーロン・マスクが指摘したFSDの課題

イーロン・マスクは、中国市場でFSDを展開する上での課題として、主に以下の2つを挙げました。

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続きは、2284文字あります。
  • FSD導入による中国市場への影響

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