BOTINKIT:AIが描く「食と人」の新しい関係

深セン発のテック企業BOTINKITは、AIとロボティクスで「料理をデータ化」し、味の再現性と効率を両立させるデジタル厨房を世界に広げています。職人の勘や経験をアルゴリズムに翻訳し、誰でも同じ味を再現できる未来を描く―食の在り方そのものを変える挑戦が、今ここ深センで進んでいます。
吉川真人 2025.10.20
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おはようございます。中国深セン在住の吉川です。

先日、知人の会社の海外研修旅行を企画し、深センでのテクノロジー体験や弊社を含む複数の会社訪問を行いました。その中で、ここ半年間比較的かかわらせていただいている深センのテック企業BOTINKITにもご案内することになりました。せっかくなら読者の皆さんにも知ってもらいたいという思いを持って、このレターをお届けします。

BOTINKITとはどのような企業か

BOTINKITは、AIとロボティクスを活用した「デジタル厨房(Digital Kitchen)」の構築を目指す企業です。創業者は1990年代生まれの女性起業家・陳鋭氏。香港理工大学で会計と金融を学び、CFA資格を取得したのち、KPMGで戦略コンサルタントを務めた経歴を持つという異色の存在です。

彼女は2015年に偶然経営を引き継いだ居酒屋をきっかけに飲食業界へ足を踏み入れ、複数の店舗経営を通じて、厨房の人手不足・味のばらつき・高い人件費など、飲食業界の構造的課題を肌で感じたといいます。

こうした経験が「AIで料理のプロセスをデジタル化する」という発想へとつながりました。2018年以降、彼女は「料理を数値化する」挑戦に本格的に着手し、2021年にBOTINKITを設立。社名は“Bot in Kitchen(厨房の中のロボット)”に由来し、同社の理念「創新(Innovation)を止めない」「美食の文化を止めない」を象徴しています。

技術の中核:MAXとOMNIがもたらすAI調理の標準化

BOTINKITの主力はMAXとOMNIという2系統のAI調理ロボットです。いずれも16通路の自動投料機構と高精度な温度制御を備え、分量・火力・攪拌・時間を細やかに制御します。鍵になるのが独自のTCTA(デジタル調理翻訳アルゴリズム)です。

TCTAは、星級シェフの鍋振りの強さ、火加減の遷移、油温の変化、投入タイミングといった「感覚の領域」を十万単位の時系列データとして記録・解析し、機械が実行可能な調理プロトコルへ翻訳します。

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続きは、3036文字あります。
  • クラウドレシピと課金モデルの可能性
  • AI厨房の司令塔:KMESと品管AI
  • 実装実績と国際評価
  • 資金調達と人材の強み
  • 飲食業界へのインパクト
  • 家庭への波及:調理の概念が変わる
  • クラウドが拓く「味の流通」と知財の設計
  • 私の所感:AIは味を奪うのではなく、民主化する

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