【中国テックトレンド】張一鳴、4年ぶり復帰の裏で唸る中国政府の思惑:テック巨頭に突きつけられた共同富裕とAI国家戦略のリアル
おはようございます。中国深セン在住の吉川です。
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さて、今週のニュースレターのテーマは、久しぶりに表舞台に姿を現した、あの巨大テック企業の創業者についてです。彼の復帰は、中国テック業界の潮流が変わったことを示す、決定的なシグナルだと私は見ています。
沈黙を破ったカリスマ:張一鳴氏が上海で始めたAI人材道場
タイトルの通り、世界的なショート動画プラットフォームTikTokの生みの親、バイトダンス(ByteDance)の創業者、張一鳴(ジャン・イーミン)氏が、4年ぶりに公の場に姿を現したというニュースは、中国テック界に大きな波紋を広げました。
彼は10月9日、上海市に新設された非営利機関知春創新中心(Zhichun Innovation Center)の開業式に登壇。2021年5月にCEOを退任し、表舞台から姿を消して以来の公の活動です。

この知春創新中心の設立目的は、極めて具体的かつ野心的です。それは、前沿コンピューターと人工知能(AI)の技術革新研究、オープンソース開発、そして最も重要なトップレベルの革新的人材の育成に焦点を当てています。張一鳴氏自身が寄付者として関わり、上海交通大学のAI教育のカリスマである俞勇(ユウ・ヨン)教授と共同で立ち上げたこの機関は、中国AIの未来を担うトッププレイヤーの道場と呼ぶべきものです。
張一鳴氏は、この場で長期と全体を見据え、独立思考と実践を重視する人材を育てたいと熱意を語りました。これは、知識があるだけのエンジニアではなく、世界を変えるブレイクスルーを生み出せるイノベーターを生み出すことを意味します。
日本の経営者やビジネスマンの皆さんには、この一見教育支援に見える動きの裏に、中国政府の強力な国家戦略と、民間億万長者に対する容赦ないプレッシャーが潜んでいることを理解していただきたいと思います。
AI人材の黄埔軍校と国家戦略の核心
張一鳴氏がタッグを組んだ俞勇教授は、中国AI界の伝説的な存在です。彼が創設した上海交通大学のACM班は、依図科技や第四範式など、評価額数兆円規模のAI企業の創業者を多数輩出しており、中国AI人材の黄埔軍校と呼ばれています。
今回の知春創新中心の設立は、この最強のAI人材供給ラインを、張一鳴氏の資金力とバイトダンスで培った世界最先端のアルゴリズム開発のノウハウでさらに強化することに他なりません。
なぜ、元CEOがこれほどまでにAI人材育成に注力するのでしょうか?
それは、このプロジェクトの核心が、中国政府の国家戦略と完全に一致しているからです。
中国政府は2030年までにAI分野で世界トップに立つことを目標とする新一代人工智能発展計画を掲げています。すでに一部地域では小学校からのAI教育を必修化し、大学でのAI学科増設も国策として推進中です。
しかし、政府の主導する大規模な教育だけでは、OpenAIのChatGPTのような世界を驚かせる革新を生み出す天才的な頭脳は育成できません。張一鳴氏が目指すのは、まさにこの国家戦略のボトルネックである、トップ・オブ・トップのイノベーターを、民間主導の、より自由で革新的な環境で生み出すことなのです。
張一鳴氏の行動は、自身のAGI(汎用人工知能)の波を逃してはならないという個人的な使命感と、国家が求める最重要課題の解決という二つのベクトルが奇妙なほど一致しているように見えます。しかし、この一致こそが、今回の復帰劇の最も重要な背景を物語っています。
共同富裕の陰に響くぐぬぬの声:テック創業者の宿命
張一鳴氏が4年間の沈黙を破り、国家戦略の核心であるAI人材育成という貢献度の高い非営利分野で復帰したことは、数年前のアリババ創業者、ジャック・マー(馬雲)氏の動きと酷似しており、中国の億万長者に課せられた新しい宿命を示しています。
ジャック・マー氏も、公の場から姿を消した後、教育や農業といった分野への貢献を通じて、徐々に活動の場を広げました。彼らが選ぶ復帰の舞台は、常に国家が最も必要としている分野であり、営利性が低く、社会貢献性の高い分野です。
この背景にあるのが、習近平政権が掲げる最重要政策の一つ共同富裕。
共同富裕とは、文字通り共に豊かになることを目指す社会主義的なスローガンであり、極端に開いた貧富の格差を是正することを目的としています。その手段は、単に貧しい人々を支援するだけでなく、高すぎる所得を規範的に調整し、違法な所得を取り締まるという、富裕層に対する厳しい規制と再分配の要求を含みます。