胃袋と愛国心のあいだで揺れる人たち―スシロー人気と「反日」ムードをどう見ればいいのか
おはようございます。中国深セン在住の吉川です。
実は12月7日から1月15日まで日本に滞在しています。先週月曜日は、東京都が運営するTokyo Innovation Baseのピッチイベントに登壇し、4画面まで拡張できるWisee Cockpit Monitorがなぜ生成AI時代に求められるのかをプレゼンしました。
結果として東京都側に採択いただき、2月6日から3月31日まで東京有楽町のTiB別館で展示販売することになりました。来年も東京に来る機会が増えそうです。今月下旬や来月初旬はまだ空きがあるので、事業提携や事業相談をご希望の方がいらっしゃれば気軽にご連絡ください。TiB PITCHは12月8日に有楽町で開催され、採択者には展示や試験導入の機会がある仕組みです。
さて最近、日本にしばらく滞在しながら、中国側のニュースやSNSもいつものように追っていると、ちょっと不思議な感覚になることがあります。
一方では、日本の歴史認識や安全保障政策をめぐって、中国のネット空間では厳しい言葉が飛び交う。
他方では、その同じ都市で、スシローがじわじわと店舗を増やし、週末や繁忙期には予約アプリで「長時間待ち」が表示されることも珍しくないと聞きます。
私は普段は深センを拠点にしていますが、上海や北京の友人に話を聞くと、「スシローはオープン当初から、時間帯によっては何時間も待つ」「仕事終わりにふらっと行ける店ではなくなった」といった声が返ってきます。実際に列の長さをこの目で見たわけではありませんが、「気軽な回転寿司」のはずが、予約争奪戦の対象になっている、という空気だけは伝わってきます。
一方で、学校教育や映画、ニュース番組では、日本の侵略戦争に関する内容が繰り返し扱われ、「日本製品の不買」や「日本旅行への批判」が話題になることもある。
そうした情報を日本から眺めていると、「歴史認識は厳しいのに、なぜ日本の外食チェーンにはここまで人が集まるのか」という問いが、どうしても頭の片隅に残ります。
ただ、少し落ち着いて整理してみると、そこにあるのは激しい矛盾というより、中国ならではの実用主義と、グローバル化した日常生活の姿なのだろう、と感じるようになりました。
スシローはなぜここまで支持されるのか―「ユニクロ価格の日本チェーン」というポジション
まず、スシローが中国の都市部で一定の人気を保っている理由は、政治や歴史認識とは別のところにあります。
いわゆる「きちんとした日本料理店」に行くと、一人あたりの食事代はすぐに数百元に達します。それに対して、スシローの一皿10元前後という価格設定は、日本食のイメージを一気に「日常の外食」レベルまで引き下げました。店内の雰囲気やメニューの見せ方は、わかりやすく“日本チェーンらしい”世界観をまとっている。
つまり、「ユニクロのような価格帯で、それなりに“海外チェーン感”のある体験ができる店」として、中間層のニーズにぴたりと合っているのだと思います。
オペレーションも合理的です。回転レーンとタブレット注文を組み合わせて、提供スピードを上げる。食べ終わった客が長居しにくい構造にして、回転率を高める。忙しい都市生活者にとって、「そこそこおいしくて、比較的早く食べられ、価格も極端ではない」という店は、使い勝手が良い存在です。
加えて、「期間限定メニュー」「季節フェア」のような企画も多く、SNSに写真を上げたくなる要素が組み込まれています。中国の若い世代にとって、人気店に行くこと自体が一つのコンテンツであり、「スシローに行った」という事実だけで、投稿のネタが一つ増える。その意味でも、スシローは“話題になりやすい店”としてデザインされているように見えます。
反日ムードとスシローの人気は、本当に矛盾なのか
では、歴史問題や政治的な対立がニュースを賑わせる中で、なぜスシローのような店が受け入れられるのでしょうか。