「極越汽車」破綻の舞台裏―壮大なプロジェクトの野望と挫折
おはようございます。深セン在住の吉川です。日本でも報道されている通り、中国EV業界で「次世代の革命」とまで称された「極越汽車」が破綻に追い込まれるという、衝撃的な出来事が起きました。この事件は、単なる企業の経営破綻ではなく、中国経済の成長過程や競争の激しさ、さらにはスタートアップ文化の脆さを浮き彫りにしています。

百度と吉利の共同EVプロジェクトの極越自動車は12月12日をもって全国の店舗をすべて閉鎖。試乗車はロック、販売員は全員解雇、車両運営管理を担当する約100名のスタッフだけを残し、他のすべての部門は完全に解散予定。
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「極越汽車」は、中国版Googleと呼ばれるAI企業百度と自動車大手の吉利(Geely)が手を組み、次世代のスマートEVを目指して設立された会社でした。百度のAI技術、吉利の製造力というそれぞれの強みを融合することで、「中国から世界へ」という壮大なビジョンを掲げたプロジェクトでした。しかしながら、理想と現実のギャップ、内部的な問題、市場環境の変化により、プロジェクトは数年で行き詰まり、従業員の抗議や社会的な混乱を招く事態に陥りました。
今回のニュースレターでは、「極越汽車とは何だったのか?」、「破綻に至った原因は何か?」、さらには「そこから得られる教訓」に至るまで、詳しく掘り下げていきます。この事件は単なるニュースに留まらず、未来のビジネス戦略に活かせる貴重な学びを私たちに提供してくれるでしょう。
極越汽車とはどんな会社か?
設立とその背景
極越汽車は、2021年に百度と吉利が共同プロジェクトとして立ち上げた次世代EVブランドです。百度は、中国のIT業界を牽引する企業であり、特にAI分野や自動運転技術において他社を圧倒する実績を持っています。一方で、吉利は長年にわたり自動車製造業界で培った技術力と供給チェーンの整備において中国国内で確固たる地位を築いていました。この両者が手を組むことで、「革新的なスマートEVを中国から世界へ」という壮大なビジョンが描かれました。
当初、百度が55%の株式を保有しプロジェクトの主導権を握っていました。しかし、2023年に入り、製造ライセンスの取得や資金調達における問題が表面化。これにより吉利が主導権を握る形で再編が行われ、65%の株式を持つ吉利主導の体制へと移行しました。この変化により、極越汽車は単なる「合弁企業」ではなく、吉利の内部プロジェクトのような形で進められることとなりました。

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初期のビジョン:テスラを超える「スマートEV」
極越汽車のビジョンは単純なものではありませんでした。百度が持つAIや自動運転技術を駆使し、吉利の高度な製造力と組み合わせることで、他社を圧倒する「スマートEV」を市場に投入するというものでした。この構想の中心には、「高度なAIによる自動運転機能」「人間中心の設計」「長距離走行を可能とする高性能バッテリー技術」という3つの柱がありました。
初期のモデルである「極越01」は、SUV市場をターゲットにしており、百度の自動運転プラットフォーム「Apollo」との連携を前面に押し出していました。また、「極越07」は高級感を重視した設計で、特に若い世代の中国人富裕層をターゲットにしていました。両モデルとも、デザインや技術において未来志向を強調し、中国国内のみならず、海外市場でも競争力のある車両として位置づけられていました。
しかし、このビジョンはすぐに課題に直面しました。発売後、価格設定が競合他社と比較して高額であったため、販売は伸び悩みました。また、「高性能」をアピールしていた技術の実用性や信頼性について消費者の評価が分かれ、これがブランドイメージの弱体化につながりました。
販売不振と内部の課題
極越汽車の販売実績は、プロジェクトの期待値に大きく届きませんでした。2024年の年間販売台数は約1.4万台に留まりましたが、これは新興EVブランドの「生存ライン」とされる月間販売台数2万台には遠く及ばない数字です。この販売不振は、消費者への訴求力不足だけでなく、内部的な運営の混乱が影響していました。
例えば、初期モデル「極越01」の販売価格は、発売後1カ月で3万元(約50万円)も引き下げられるという大幅値下げが行われました。この決定は価格戦略の不備を露呈するとともに、消費者の間でブランドへの信頼を損ねる結果となりました。さらに、製品の技術力自体は優れていたものの、他社製品と比較して目立った差別化要素に欠けていたことが致命的な問題となりました。
CEO夏一平のキャリア:成功と挫折
摩拜単車での輝かしい成功
極越汽車のCEOを務めた夏一平氏は、かつて「摩拜単車(Mobike)」の成功によって中国スタートアップ界を象徴する存在となった人物です。彼は南京郵電大学で通信工学を学び、その後英国エセックス大学で電信と情報システム分野で修士号を取得。通信技術のバックグラウンドを持ち、中興通訊やフォードでキャリアを積むなど、国内外で幅広い経験を積みました。このような技術者としての基盤を持つ彼が、2015年に摩拜単車の共同創設者兼CTOとして参画しました。
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- なぜ極越汽車は破綻に至ったのか?
- 従業員抗議と社会的混乱
- 極越汽車から学ぶ教訓
- 結論:極越汽車の破綻が示す未来の課題
- One More Thing: 中国ビジネストレンドコミュニティのご案内
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